たとえばお前が五臓六腑破壊され、皮膚と皮膚とを繋ぐ細胞の一つずつを千切られてしまってもお前に嵌め込まれていたその眼球だけは一切の破壊を寄せ付けず、細部に何の疵も残さずに湖底に沈んでしまうだろう。というような話をした時にお前は「縁起悪い」と顔を歪めて俺を見やったがその目だよその目が! いずれは湖底に沈んでしまうだろうその目が! 眇めれば色気すら感じてしまうお前の性的な一部分であったその目の表面はしっかりと水という膜を張りつめ時に揺らぎ、自然、深い森の奥にひと知れず存在している碧い湖を想わせた。魚すら住めぬ清らかなそこに落ちたお前の眼球を俺は想像した。風の吹くたびに頭の上で震える樹々の枝は渇ききった音を鳴らし、金木犀の豊潤な匂いが漂っていた。
 俺は湖底の眼球を拾い、自分のそれと取り換えるだろう。すると先程までお前の眼窩に収まって知らぬ顔をしていたそいつは再び光を取り戻し、青々と繁る緑――もしくは痩せた枯れ枝、もしくは開きかけの桃白の蕾、――、を、網膜に焼き付け始めるだろう。そして俺はお前が見ていた世界を見るのだ。おそろしく澄んだ湖に腰まで浸かってお前の真似して目を眇めて世界を見るのだ。そして問うのだ。お前が見てきたその世界は、美しかったか?
 葉擦れの音しかしない林のなかに立ち、俺は俺の目で木刀を振るうお前をみつめている。
 そのうちに、ぽろり、と落ちた眼球を拾い損ねぬよう、ほとんど睨みつけるようにお前の美しい立ち振る舞いをなぞっている。




そ の 眼 球 に 玩 ば れ た の サ







(2010/10/06)