目蓋を持ち上げても広がるのは深い夜の色だった。一度目を閉じて、再び開ける。それを2、3回ほど繰り返し、ようやく頭が冴えてきた。
 側で寝息を漏らす彼の寝顔を覗き見てみた。眠る時に強く強く握ってくれた掌は、薄い毛布の中でほどけている。
 あまりにも無防備が過ぎないか、と少し笑ってしまう。
 音を立てずにベッドから抜け出して、デスクに置いていた煙草とライタを持ってベランダに出た。
 煙草が苦手な彼のために、私は度々、夜の蛍になる。
 夜色の空気に煙を融かして、手摺りに凭れかかって空を見た。
 冬の夜空に撒かれた星々の瞬きはとてもささやかで、私は少しだけ安心する。
 ジャニスの「AT SEVENTEEN」を口ずさむ。星のようなささやかな音で小さく小さく口ずさむ。
 17才の頃、私は何をしていたのだろう。
 悪い子に憧れながら、そんな度胸もなく真面目に生きた18年。
 ささやかな、ささやかな、そんな大切を望んで、
 誰かを愛して、生きてきた。
 次に新しい年が来れば、私はまたひとつ、生を重ねる。
 年齢の重さに、首を擡げる微かな不安。
 後どれほど生きられるのだろう。
 生きていてもいいのだろう。

 煙は細く闇に紛れて、やがて消えた。


(age 17/20091206/Janis Ian「AT SEVENTEEN」)