涙が落ちた。


 はらはらと音もなく落ちそれは海になった。
 ひとりの夜を乗り越えてゆける強さなんてない。泣くだけで何もできない。
 無力さを感じた。
 そうしたら涙が出た。
 たとえば誰かが笑うように、
 たとえば誰かが怒るように、
 私はただただ涙を流したのだ。
 体は機械のようなのに意思とは関係のないところで雫が零れて、落ちる。はらはら、ほろほろ、ほどけて、空気に混じる。涙の海に星が揺れる。夜の窓から見上げた月の大きさと眩しさに、ひとりきりのこころもとさに、おかしくなってゆく心に、私は泣いた。
 そうだあの歌を聴こう。
 優しい優しいあの子の歌を。
 そしてうたおう。小さな声で、泣いてうたおう。
 それしかできない夜だから、
 そうだあの歌をうたおう。



(涙/20091204/六本木のあるカフェに。)