「よろしければ一緒に暮らしませんか」
 私にそう問うた男の顔はカメレオンだった。目玉がぎょろりとしていて、緑の肌をしていた。微かに揺れる列車の中。偶然にも相席になったカメレオンと私。私は煙草を吸っていた。備え付けの灰皿に灰を落とし、細い煙草を唇に。私の動きをカメレオンは見つめている、見続けている。
「よろしければ一緒に暮らしませんか」
 カメレオンは再び私に問うた。
「何故?」
 私は逆に訊ねてみた。その時にはもう既に、この男と暮らす事を考えていた。その思考の片隅ではてこのカメレオンとどうやって生きてゆくのだろうと少しばかりの不安なんてものはなく、ただただ漠然とこの男と寝る事を考えていたのだ。
「何故、とは?」
 カメレオンが笑った。私も笑った。まったく愚問である。
「いいよ、じゃあ暮らしましょう」
 列車の窓は似たような景色を流すばかり、横目でそれを眺めながら私は、まったく狡猾な女だと自嘲した。


(カメレオン/20091202/寒い。)