彼女が深く煙を吸い込みそして吐き出す様を微睡みの墜ちる目蓋から覗く。彼女と彼女の煙草の匂いがする。ああ此処は彼女の部屋だと認識する。離脱する事はとても叶わない部屋。満ちる闇と沈澱する痛みと上る煙とそして自分の体と。触れるのは薄いタオルケットそれさえも冷たく、鋭く、私を射抜くものだから私は、そ、っと涙を落とす。彼女の体に刻まれた、淡い花を思い出す。私はそれを愛しく想い、それに触れたいと願い、そして、静かに手を伸ばす。虚空を舞う掌が乾いた空気を攫んではらはらと零れる。彼女に触れたい。指先が彼女の髪の毛に。こちらを振り返るかもしれない期待。あっ気なくかわされて私はまた独り、沈黙に沈む。


(無題/20091202/自室にて。)